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更新日:2026年10月19日
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学校での1型糖尿病ケア実態調査:ケアに年齢・性別・医療機器が関与~思春期以降の「保健室利⽤減少」と「トイレ利⽤増加」が浮き彫り‧トイレでのケアは⾎糖管理悪化と関連し、⾼校進学時に急増〜
提供年月日:2026年10月19日
1型糖尿病は、生存のために日常的なインスリン投与と頻回の血糖測定(自己管理)が不可欠です。小児期に発症した場合、一日の大半を過ごす学校において、子どもたちが適切な環境で自己管理を行えるかは、良好な血糖管理(HbA1c)を維持する上で極めて重要となります。
本研究は、全国の多施設共同研究組織である「小児インスリン治療研究会(第5コホート)」に登録された、学校や園に通う18歳未満の1型糖尿病患児1,105名を対象に、学校でのケア実施場所の実態を調査し、ケア実施場所と血糖管理や背景要因(年齢・性別・治療法など)との関連について世界で初めて数理的に解明した大規模研究です。その結果、11歳以降の思春期において「トイレでのケア」が出現・増加し、「保健室など別室でのケア」が減少する対比構造が明らかになりました。また、トイレでのケアは血糖管理の悪化(HbA1cの上昇)と独立して関連していることも判明しました。
本研究成果は、先進医療機器を活用した支援の重要性を示すだけでなく、特に高学年〜思春期・進学期における子どもたちの心理的葛藤や友人間での居場所・時間の確保に配慮し、校内で安全かつ安心してケアを行える環境を整える必要性を強く示しています。
本研究は、小児インスリン治療研究会の第5コホートにおいて、松井克之(滋賀県立総合病院小児内分泌代謝糖尿病科/滋賀医科大学小児科学講座客員講師)および菊池透(第5コホート代表/埼玉医科大学小児科)らの共同研究チームにより実施されました。
本研究成果は、米国糖尿病学会雑誌「Diabetes Care」に米国東部時間2026年10月7日(日本時間 10月8日)にオンライン掲載されました。
ポイント
- 約6%が学校のトイレで自己管理:1,105名の小児1型糖尿病患者を対象とした大規模調査において、学校でのインスリン投与や血糖測定を「教室(36.9%)」や「保健室等(52.6%)」で行う生徒が多い一方、5.9%が「トイレ」で実施していました。
- 11歳を境に「トイレ利用の出現・増加」と「保健室利用の減少」が対比:年齢別の移行分析(Joinpoint分析)により、10歳までなかったトイレ利用が11歳(1.8%)から出現し、高校入学に該当する16歳で20.8%へ突出して増加することが判明しました。これと対照的に保健室等の利用は11歳(66%)がピークで14歳以降に急減していました。
- 背景にある思春期の心理と休み時間の優先:思春期における友人関係の重視から「移動に時間がかかる保健室を避け、手短に済ませられる近くのトイレを選ぶ」行動傾向や、周りの目を気にする自他意識の高まりが背景にあると推察されます。
- トイレでのケアは血糖管理の悪化と関連:トイレでケアを行うときのHbA1c平均値は8.56%であり、教室(8.00%)や保健室等(7.95%)でケアを行うときと比較して有意に高く、血糖管理が不良であることが明らかになりました。
主な研究結果
1.ケア場所の年齢変化:11歳を境とする「トイレの増加」と「保健室の減少」
年齢(3歳〜18歳)に応じたケア場所の割合の変化(Joinpoint解析)において、成長や学校環境の移行に伴う明確な変化が確認されました。
- 就学まで(〜6歳)
年齢とともに教室利用は増加し、小学校入学(6歳)時には40%を超えます。この年齢ではインスリンポンプや注射方法を工夫して園でケアを行わない方法を選択されることがあるが、これは逆に減少します。
- 学童期(6〜11歳)
小学校入学以降、年齢とともに教室利用が減少する一方で保健室・別室の利用が増加し、11歳時点で66%(ピーク)に達しています。
- 思春期・高学年(11歳〜18歳)
10歳までなかったトイレ利用が11歳(1.8%)から出現しはじめます。これと入れ替わるように、保健室・別室の利用率は減少傾向となり、14歳以降に急減(18歳で21%まで低下)します。
- 高校入学(16歳前後)
トイレ利用は16歳時点で20%(約5人に1人)へ急増します。インスリンポンプ使用者のみに限定した解析でも、高校入学時(16歳)に21%とスパイク状の増加が確認されました。

【考察:なぜトイレの増加と保健室の減少が対照的に生じるのか?】
思春期・中高生年代では同年代(友人)との関係性が極めて重視されます。ケアのために離れた保健室へ移動すると、授業後の休み時間や友人との大切な会話時間を失ってしまうため、「移動時間をかけず素早く終わらせられる近くのトイレ」を選んでしまう行動傾向が考えられます。また、思春期までの保健室利用自体が思春期における「トイレ利用への過渡期・前段階」になっている可能性も示唆されます。
2.学校でのケア実施場所と血糖管理(HbA1c)の関係
学校での主なケア場所は、全体で保健室・別室(52.6%)、教室(36.9%)、トイレ(5.9%)でした。「実施せず」も4.6%でした。 各群のHbA1c平均値を比較したところ、トイレ群は他の群に比べて明確に高値(血糖管理不良)でした。

【考察:なぜトイレでのケアで血糖管理が悪いのか】
食事に合わせたインスリン注射は適切なタイミングで行う必要がありますが、トイレを利用することによってそのタイミングが遅れることや、行えていない可能性が考えられます。
3.性別やデバイス使用による選択の違い
- インスリンポンプの使用:教室利用が有意に多く(オッズ比: 4.166)、トイレ利用は有意に低く(オッズ比: 0.425)なっていました。ポンプ利用はインスリン投与手技の簡略化やプライバシー面のメリットが大きいものと思われます。
- CGM(持続血糖測定器)の使用:教室利用が有意に多く(オッズ比: 1.593)、トイレ利用は有意に低く(オッズ比: 0.401)なっていました。血糖測定の容易さやプライバシー面のメリットが大きいものと思われます。
- 性別(女子):男子と比較して教室利用が少なく(オッズ比: 0.574)、トイレ利用が多い(オッズ比: 4.188)傾向を示しました。周囲の目やプライバシーに対する葛藤などの心理的要因が男子よりも強いものと思われます。
社会的背景と今後の展望
米国のガイドライン等では「本人が希望する任意の場所(教室含む)でのケア実施」が推奨されていますが、日本の学校現場では周囲の視線や移動時間の問題から、衛生面・安全性に課題のある「トイレ」でのケアを選択せざるを得ない中高生が一定数存在します。特に、人間関係が再構築される高校進学時(16歳頃)は、「友達との時間を犠牲にして保健室へ行きたくない」、「周囲に病気を打ち明けにくい」といった思春期特有の心理的葛藤が強まり、トイレでの隠れたケアに繋がりやすいことが浮き彫りとなりました。不適切な環境でのケアは、ケア自体の簡略化やインスリン投与のスキップを引き起こし、結果として血糖管理の悪化を招いている可能性があります。
教育・医療現場への示唆
- 思春期の心理の理解と配慮:休み時間や友人関係を大切にしたい思春期において、移動を伴う「別室への分離」はケアの負担や心理的孤立を深める要因になり得ます。子どもたちのこうした心理状態や生活文脈を理解した上で関わることが求められます。
- 校内環境の整備と周囲の理解促進:高校入学時など環境が大きく変化する時期においては、病気に対する校内や級友の正しい理解を深め、生徒が周囲の目を気にせずケアを行える環境づくりが求められます。こうした理解促進や環境整備は、高校入学以前の段階から進めておくことが重要です。
- 先進医療機器(ポンプ・CGM)の活用:周囲に目立たず短時間でケアが完結する先進デバイスの導入は、隠れたトイレ利用の抑制に寄与します。そのため、学校現場においてもこれらの機器をスムーズに使用できる環境づくりが望まれます。
論文情報
タイトル:Diabetes Care of Children with Type 1 Diabetes at School: Factors Related to the Choice of Care Location and Association with Glycemic Control (学校における1型糖尿病児の糖尿病ケア:ケア実施場所の選択に関連する要因と血糖管理との関連)
著者:Katsuyuki Matsui, Chihiro Nemoto, Koji Tagawa, Shizuyo Nagai, Kaori Fukawa, Hiroki Matsuura, Kentaro Shiga, Tatsuhiko Urakami, Tomoyuki Kawamura, Shigeyuki Ohtsu, and Toru Kikuch.
掲載誌:Diabetes Care
DOI:10.2337/dc26-1452.
研究に関するお問い合わせ
滋賀県立総合病院 小児内分泌代謝糖尿病科
(滋賀医科大学小児科学講座 客員講師)
松井克之
TEL:077-582-5031(代表) E-mail:kmatsui@belle.shiga-med.ac.jp
報道対応
部局名:滋賀県立総合病院
所属名:経営強化推進室
係名:経営企画係
担当者名:森田、大友
電話番号:077-582-8051
内線:2415
共同発表機関
部局名:国立大学法人滋賀医科大学
所属名:総務企画課
係名:広報係
電話番号:077-548-2012
共同発表機関
部局名:小児インスリン治療研究会
所属名:事務局(オフィスミモザ内)
電話番号:075-253-2438
このページの作成所属
滋賀県立総合病院 小児内分泌代謝糖尿病科 松井克之