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特別企画新春対談

観光を地域の力にして、新たな100年に向かう(広報誌プラスワン 平成31年(2019年)1・2月号 vol.177)

星野リゾート代表星野 佳路さん 滋賀県知事三日月 大造

星野リゾート代表 星野 佳路さん × 滋賀県知事 三日月 大造創業から約100年。次の100年を見据えて事業に取り組む星野リゾートの代表 星野佳路さんをお迎えし、観光を軸に、これからの滋賀県についてお話しいただきました。
星野リゾート長野県北佐久郡軽井沢町に本社を置くリゾート運営会社。異なるコンセプトを持つ4つのブランドと、個性的な宿泊施設を運営。新規施設の開発のみでなく、既存の旅館やリゾート施設の運営を請負い、様々な工夫をこらした手法で事業を再生している。現在、手がける拠点数は37カ所(国内35、海外2)。

星野リゾート ロテルド比叡比叡山の懐に建ち、琵琶湖を望むホテルとして、1999年に開業し、2015年に星野リゾートが運営を開始。ロテルド比叡では、「美食」「絶景」「地域魅力」をコンセプトに、滋賀県ならではの魅力に着目。発酵食や滋賀の農産物を取り入れた最上のフレンチ、標高650mの展望デッキからは四季折々の琵琶湖の景色が楽しめる。また、「比叡山やくばらい散歩」などの体験プランを提案し、滋賀の魅力を堪能できるオーベルジュとして多くのファンに親しまれている。

いかに京都から離れるか、いかに宿泊客を増やすか

知事以前に「京都の知名度と集客力に頼らず、あえてないものを追求すべき」とお話しいただいたことを覚えています。
星野滋賀は京都の一部になってしまうと中心部にはなかなか敵いません。いったん京都から離れ、自立した観光地としてのアイデンティティを持てば、そのためだけに来てくださる方が増えます。ロテルド比叡も滋賀の魅力に特化し、おかげさまで好調です。
知事そういう点では、湖を見渡せるびわ湖テラスなどが注目されています。湖の沿岸200kmを自転車で一周する「ビワイチ」もブームになっており、全国からサイクリストが訪れています。
星野200km! 1日で回れるものなのでしょうか。
知事私は妻と2日かけて回りました。
星野2日かけるのはいいですね。宿泊と日帰りでは消費額も大きく異なってきます。今後は、宿泊の需要を作る観光の戦略が滋賀県には必要です。

星野 佳路さん

星野 佳路さん (星野リゾート代表)1960年、長野県軽井沢町生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院修士課程へ。その後1991年に星野温泉(当時)社長に就任。日本の観光産業振興のカギを握る経営者として注目されています。

三日月知事

琵琶湖由来の観光資源とさらに真剣に向き合う

知事ロテルド比叡の料理には滋賀の食材がふんだんに用いられていますね。
星野やはり主題は琵琶湖です。これほど食文化と密着した湖は他にはありません。発酵技術をはじめ、この湖が生み出す食文化そのものが大きな観光資源だと考えています。
知事琵琶湖は広くて深い。様々な生息環境が多種多様の生物を育み、豊かな生態系を保っています。季節ごとの生物の営みもあり、それが滋賀の豊かな食文化につながっているのです。
ただ、外来魚のブラックバスなどが琵琶湖の在来魚介類を食べることによって琵琶湖の生態系に影響が出ています。
星野真剣にブラックバスの絶滅を目指すプロジェクトができれば、研究者も集まるし面白いのではないでしょうか。琵琶湖で絶滅が成功すれば世界から滋賀が注目されるでしょう。
知事どれだけ本気になれるか、ということですね。
星野様々な分野で官公庁の本気度が問われていると思います。食文化についてもそうです。例えば、鮒ずしは琵琶湖の生態系を利用した産物ですし、滋賀の発酵文化です。しかし、漁師さんや鮒ずしを作る方も減っている。地域独自の食文化をどうやって将来に伸ばしていくかが、大変重要だと考えています。

滋賀県は平均寿命全国トップ

人だけではなく社会や自然も健康に知事厚生労働省の調査※1で、滋賀県の男性の平均寿命が全国で1位になったことをご存じですか。
星野私の地元、長野を抜いたのですね。理由は何でしょうか?知事たばこを吸う人や多量の飲酒をする人が少なく、スポーツやボランティアをする人が多いという生活習慣と、県民所得が高い、労働時間が短い、失業者も少ないといった生活環境との関係が深いと考えられています。
星野当社では20年前に脱煙プログラムをスタートさせました。当時は人権侵害と批判する社員もいましたが、今はいなくなりました。
知事お客様にも脱煙を?星野今では当たり前になりましたが、当時も禁煙部屋を用意しました。最近はたばこを吸う方もたばこの臭いがする部屋を嫌って禁煙部屋を選ぶ。禁煙にすることが喫煙者に嫌われなくなってきているのです。
知事本県も喫煙防止教育などの実施に力を入れてきた成果が健康長寿に表れてきました。
星野「健康しが」がスローガンですか。
知事人だけではなく社会や自然の健康も。例えば山の健康でいうと木を切って植えることは不可欠ですが、切った木の需要の喚起が課題となっています。
星野木質バイオマスは注目されています。エネルギーも地域で循環できるようにすればよいと思います。

地域名はマーケティングの視点で考案すべき時代

星野以前、滋賀県が県名を変えるという話を伺った記憶があります。
知事知名度向上の策として進言されましたので「検討します」と答えたら、メディアが注目して論争に発展しました。
星野県名もマーケティング的な観点で見直すべき時代だと感じています。外国人にも覚えやすかったり発音しやすかったり。観光だけではなく産品にもプラスの影響が出るはずです。
知事確かに、県名は滋賀であるのに、県内の産品には近江がついていて、説明が必要な時もあります。
星野市町村名は合併に伴ってどんどん変わっていますからね。
知事近頃では兵庫県の篠山市が住民投票により丹波篠山市に変わるようです。こちらも産品には丹波がついています。
星野それで販売数や集客数に差が出始めたら、いつか県名にも及ぶ時期がくるのではないでしょうか。

観光の充実が新たな100年を支えていく力に

知事これからの時代を考える上でSDGs※2の視点でも検討すべき価値がありそうです。
星野SDGsの考え方には興味があります。当社は平成31年で創業105年目になりますが、今後の100年は大きな変革の時代を迎えると考えています。
韓国や中国と日本との間で政治上の問題はたくさんありますが、観光客は多く来日してくださる。人が行き来して交流することで、相互理解ができる。それが、国同士のより良い関係に影響すると考えています。この流れを止めてはいけないと感じています。
知事観光の振興により相互理解が進むということですね。
星野その通りです。滋賀のことも実際に行けばよくわかるはず。行けば愛着がうまれ、そこでつくられているもののストーリーが理解できます。
観光は、地域の価値を世界に発信する重要な役割を担っていると考えます。「100年後には世界で最も大切な平和維持産業になっている」と私は予測しています。
知事観光を通じて滋賀のことを知ってもらい、滋賀県民は観光を通じて世界を知る。人や自然との調和や共生を大事にする滋賀の思想や生き方が世界に共感してもらえると嬉しいですね。そして、これから先も滋賀が豊かでみんなが幸せを感じられる地域であり続けられるように、様々な取組を進めてまいります。

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※1/「平成27年都道府県別生命表」 厚生労働省 ※2/SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略。平成29年、滋賀県が都道府県で初めて県政に取り入れることを宣言