インクルーシブ教育とは
お互いの個性を認め合い、誰もが地域で安心して暮らせる社会をめざすインクルーシブ教育について、滋賀大学の渡部雅之教授にお聞きしました。
A:
「インクルーシブ」は、「すべてを含んだ」という意味です。「インクルーシブ教育」とは、障害のある子どもたちと、障害のない子どもたちが、可能な限り、同じ場で共に学び合うことにより、両者にとってより充実した学びを提供しようとするものです。
特に障害のある児童・生徒は、地域の小・中学校ではなく、特別支援学校に通うことが多いのですが、個々の障害に応じた教育を受けることができる反面、幼い頃からの友達と離れてしまい、地域社会との交流も少なくなるという問題があります。
このため、小学校や中学校へ進学する際に、特別支援学校や特別支援学級、あるいは通常学級のいずれがふさわしいのかを、就学指導を通じてより柔軟に選べるようにしたり、特別支援学校などへ進学した場合にも、地域の小・中学校と緊密に交流できる仕組みを整える必要があります。
我が国では、障害者のあらゆる人権を保障するための「障害者の権利条約」に基づき、インクルーシブ教育を推進するための法整備が図られ、滋賀県でも具体的な取組が始まっています。
滋賀大学教授(教育・社会系心理学)
渡部 雅之さん
A:
障害のある子どもたちが特別支援学校を卒業し、地元に戻って暮らそうとするときに、地域社会に溶け込めない、就職先が見つからないなど、地域社会での自立が難しくなるケースがしばしば見られます。地元の子どもたちと共に学び、地域社会とのつながりを保ち続けるために、インクルーシブ教育が必要なのです。
同時にこの教育は、すべての人にとって必要なものでもあります。
例えば、障害者に対する知識や理解が十分でないと、差別や偏見、不安が生まれがちで、そのために障害者を拒否してしまうのですが、子どもの頃から共に学ぶことで、お互いを理解し、認め合い、そして支え合う心が育てられます。
また、地域社会には多様な人々が暮らしています。その中で自分の個性が周りの人に認められていると感じることができれば、楽に生きることができ、暮らしやすい社会が実現します。
基本ビジョンの構成イメージ
多様な個人が能力を発揮しつつ自立して共に社会に参加して支え合う
共生社会の形成
医療の進歩による発達障害などの診断の増加、職業構造の変化による就労状況の変化、価値観の転換によるニーズの多様化 等
A:
インクルーシブ教育は各国で進められていますが、まだ試行錯誤の段階で、課題も多いのが現状です。
通常学級で一緒に学びましょうと言っても、施設のバリアフリー化や、必要な教材を揃えるなど、環境の整備が不可欠です。また、教職員の増員や、意識や技量の向上なども必要となります。
インクルーシブ教育は、英語教育と同じで、あくまでも手段であって、目的ではありません。英語教育は、英語(手段)を用いて諸外国の人々とコミュニケーション(目的)できるようになることをめざします。インクルーシブ教育(手段)の先にも、人々の人権意識や障害者に対する意識の変革という大きな目的があります。
障害者と地域社会とがどう交わるか、地域社会全体の意識をどう高めるかを考えながら進めることが大事だと思います。
滋賀県では、「滋賀のめざす特別支援教育ビジョン(基本ビジョン)」を策定し、インクルーシブ教育を進めています。
例えば、地域の小・中学校と特別支援学校の両方に籍を置くことで、地域とのつながりを保ちながら、特別支援学校の専門的な指導も受けられるようにする「副次的な学籍」などの新たな仕組みを検討しています。
幼いころから共に学ぶことで、障害を含めた人それぞれの特徴を個性として捉え、認め支え合う社会の形成をめざすのがインクルーシブ教育です。
障害福祉に関して先進的な取組を行ってきた滋賀県において、環境整備や教職員の質の向上などを進め、滋賀ならではのインクルーシブ教育を実現することが期待されています。
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