アール・ブリュット 滋賀からの新たな光

特集 アール・ブリュット 滋賀からの新たな光

これらは、「アール・ブリュット」と呼ばれる芸術分野の作品です。見る人を引きつける自由な表現力が世界的に注目を集める中、国内で先駆的にアール・ブリュットの振興に取り組んできた滋賀県では、日本・アジアでのアール・ブリュットの拠点として、その魅力を発信していきます。

「人間の本質って何だ?」を考えるアート

「アール・ブリュット」は、日本ではまだあまり知られていない芸術ですが、県内を中心にすでにたくさんの作品が展示、紹介されるとともに研究が進められています。
現代美術の専門家として研究に携わる保坂健二朗さんに、アール・ブリュットとは何か、またその魅力について伺いました。

思うままに自分を表現する「生(なま)」の芸術

陶器を覆う無数の突起、法則性なく自由に描かれた曲線…「アール・ブリュット」と呼ばれる作品は、とらえどころのない不思議さに満ちています。
アール・ブリュットはフランスのジャン・デュビュッフェという芸術家が考案した言葉で、日本語では「生(なま)の芸術、生(き)の美術」と解釈されています。美術の専門的な教育を受けていない人が、伝統や流行などに左右されずに自身の内側から湧きあがる衝動のまま表現した芸術のことです。それらは、通常の美術の技法や方法論の中では生まれてこないような驚きを秘めています。
アール・ブリュットを作る人は、誰かに「作品」として評価されることを期待せず、自らの創造力にまかせて表現します。自分なりの方法を編み出して、自分の表現したいことを突き詰めるのです。「生きていくうえで、作らずにはいられない」という本能のようなもので、作っている本人には「作品」という意識もないのかもしれません。その作為のなさが、「生(なま)の芸術、生(き)の美術」と言われる理由でしょう。

保坂 健二朗さん
東京国立近代美術館 研究員 保坂 健二朗さん

1976年生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(美学美術史)修了。東京国立近代美術館研究員。現代美術の専門家の立場から、アール・ブリュットの研究、評価に携わる。

福祉施設を中心に広がる作り手

ヨーロッパでは、アール・ブリュットは一般にかなり浸透していて、芸術の一分野として確立されています。パリ市立アル・サン・ピエール美術館では、日本の作品に興味を持った館からの要望で昨年3月から10か月、日本人による作品を集めた「アール・ブリュット・ジャポネ」展が開催されました。芸術の都パリで日本のアール・ブリュットが高い評価を受けたことで、国内でも埋もれた作品を世に出そうという動きが活発になっています。
日本では福祉施設で作られた作品が多いため、「障害者のアート」と思われがちですが、最近はご高齢の方による作品なども注目されています。ヨーロッパでは、犯罪者や社会的に孤独な人の心の内を表す作品なども、アール・ブリュットとして紹介されています。皆が面白いと思えば、作り手の範囲はさらに広がってくるのだと思います。

アール・ブリュットを感じてみよう

作品解説/保坂 健二朗さん

信楽焼の特徴でもある肌の素朴さと、澤田さんの特徴である無数に並ぶ突起の過剰さの対照が見事。律儀なまでの左右対称がユーモアを生み出す。縄文土器のようでもあるが、祭祀用ではもちろんない。といって鑑賞用でもない。ただただ作られて、そこにある。あるいは、そこで生きている。澤田さんはまだ20代だが、すでに10年以上陶芸を続けている。

無題
無題 澤田真一/陶土、自然釉
澤田さん
栗東市の作業所で、黙々と創作に打ちこむ澤田さん

藍の布に青や水色や白の糸で描かれた、いわゆる刺繍画。同系色でまとめられたその世界は優しさに満ちている。モチーフが植物であれば、宵闇に生きる小さな生命の息づかいが聞こえてくるし、魚であれば水がゆるりと動く様が見えてくる。作り始めたのは萩野さんが50代になってからで、藍染の布に残りものの糸とエコなところもポイントだ。

とりとおさかないっぱい
「とりとおさかないっぱい」萩野トヨ/布、刺繍糸
まるとしかくのこうしん
「まるとしかくのこうしん」萩野トヨ/布、刺繍糸

人間の本質にふれる奥深さが魅力

アール・ブリュットが見る人の心を引きつけるのはなぜでしょうか。それは、作り手の自由さや純粋さが、自分の心に眠っている何かを思い出させてくれるからかもしれません。
作品の中には、心の闇や激しさを表すものもあれば、平和で穏やかなものも見られます。それを見た人は、どうしてこの作品が作られたのか、この作品を作る人はどういう人間なのかと考えさせられるのです。有名な作家かどうかとか、技術の巧拙という基準を離れて作品をとらえることは、作り手の心の奥底にふれて「人間の本質とは何だ?」を考えるきっかけになります。そうした作品の奥深さに、人はアール・ブリュットの魅力を感じるのではないかと思います。

「アール・ブリュット・サンジャポネ」展の様子

パリ市立アル・サン・ピエール美術館で開催された「アール・ブリュット・サンジャポネ」展の様子。約12万人の来場者数を記録した。 

アール・ブリュットを 美術の入り口に

日本には、まだまだ世に出ていないアール・ブリュットがあるでしょう。「福祉」だけでなく、「芸術」という視点で作品を見ることで、ときには「これはアール・ブリュットではないか?」と思われる作品に出合うことがあるかもしれません。そういうプロセスを経ながら、そもそも美術とは何か、と人々が考える機会が増えるのもよいと思います。
また、作ることに対する衝動の源に興味を持つと、美術鑑賞の面白みが新たに発見できたり、自分でも何かを作ってみたくなったりするかもしれません。アール・ブリュットは、多くの人にとって美術に関心を向けるきっかけになると思います。人間のほとばしる創造力、「作る」ということへの情熱をあたたかく見守り、評価できる社会になってほしいものです。

アール・ブリュットを感じてみよう

パリで開催された「アール・ブリュット・ジャポネ」展で展示された作品(一部)

みなさんは、アール・ブリュットの魅力をどのように感じ取ったでしょうか。下のアール・ブリュット作品を見て、それぞれの視点で感じてみてください。

鬼
「鬼」伊藤喜彦/陶土、釉薬
女の子
「女の子」石野敬祐/紙、油性マーカー、セロハンテープ
ぼくの失われたなじみ食堂をもとめて…4.
「ぼくの失われたなじみ食堂をもとめて…4.」佐久田祐一/色画用紙、色紙、油性ペン、のり
無題
「無題」岩崎司/紙、厚紙、広告紙、短冊、絵具、鉛筆、油性ペン、筆ペン
コンゴテトラ
「コンゴテトラ」蒲生卓也/紙、水性ペン、色鉛筆
かげろう絵図
「かげろう絵図」木伏大助/紙、水性ペン

福祉と芸術をつなぎ、感動を共感に

脈々と受け継がれてきた造形活動

滋賀県では、戦後間もなく糸賀一雄氏などによって設立された社会福祉施設「近江学園」で、障害のある子どもによる造形活動がはじまりました。そこでは園生が自ら「触りたい、作りたい」と感じることが重視され、信楽の粘土を使った陶芸活動として実践されました。それが子どもたちの情操教育に大きな役割を果たすとして、県内の他の福祉施設にも障害のある人の自由な造形活動が広がっていきました。
また、1954年から作品の発表も行われはじめ、1981年に滋賀県と京都府の施設が共同で開催する「土と色展」がスタートしました。18年にわたって開催されたこの展覧会の特徴は、障害のある人が誰からも指示や制限をされることなく作った作品を展示したことでした。やがてそれらの作品は、美術家たちによって芸術的な価値や社会的な意義が見出されるようになり、福祉と芸術をつなぐ「アール・ブリュット」として評価されはじめました。
2004年には、近江八幡市に障害のある人の作品とプロの作品とを分け隔てなく展示する「ボーダレス・アートギャラリー NO-MA(当時)」が開設。ここでは、アール・ブリュットの継続的な発信の場として、作品の調査、発表にあたっています。

アジアのアール・ブリュットの拠点をめざして

パリでの展覧会が好評を博すなど、日本のアール・ブリュットが世界的に注目を集めています。その中で、滋賀は福祉施設での造形活動の歴史やNO-MAの先駆的な取り組みなど、その発展に大きな役割を担ってきました。
今後も、滋賀県はこの世界に誇ることができる「滋賀ならではのアール・ブリュット」の魅力を県民の誇りとして、より一層積極的に発信していきます。あわせて、障害のある方の造形活動を一層促進するなど、アール・ブリュットの振興に取り組み、アジアでのアール・ブリュットの拠点となることをめざします。

文化芸術として後世につなぎたい

障害のある人の社会参加のために芸術文化活動を推進している当事業団は、滋賀県で古くから受け継がれてきた福祉施設の造形活動から魅力ある作品を探し出し、主にNO-MAに展示しています。その中には、アール・ブリュットと呼ばれる作品も多くあります。アール・ブリュットが「障害者のアート」ではなく「芸術」として認められはじめたことは、福祉に携わる人々の気持ちを前向きに動かしています。障害のある人の心の世界をもっと知ってもらいたいと、作品の持ち込みも増えてきました。アール・ブリュットの人気が高まる一方、芸術作品としての権利の問題、保存や収集のシステム構築も重要な課題になっています。

齋藤誠一さん
社会福祉法人 滋賀県社会福祉事業団 齋藤誠一さん

NO-MAで開催した企画展「快走老人録」(2006年)。古民家の生活空間を利用した展示方法で、アール・ブリュットの魅力を伝えています。

ボーダレス・アートミュージアム NO-MAに行ってみよう!

5月29日(日曜日)まで 春の特別企画展 「ココロの景色」開催中

「自分とは、いったいどういう存在なんだろう。」

その「心の景色」を表出された6作家の作品展です。

開館時間:11時~17時

アクセス:近江八幡市永原町上16

休館日:月曜日(ただし3月21日(月曜日)は開館、翌22日(火曜日)は休館)

観覧料: 一般300円、高大生250円、中学生以下無料

HP:http://www.no-ma.jp

「パリに行った作家たち」展覧会&シンポジウムが開催されました

2月1日から6日まで、大津プリンスホテルで「アール・ブリュット・ジャポネ 凱旋展~パリに行った作家たち~」、アール・ブリュットの現状と未来を考えるシンポジウムが開催されました。5日に行われた他県の知事との座談会で、嘉田知事は「アール・ブリュットを県民の誇りとなる文化に育て、アジアでの拠点づくりも責任を持って進めていきたい」と、今後の決意を述べました。

「パリに行った作家たち」 展覧会&シンポジウムの写真
細かい細工が施された作品に驚きの声も。

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