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平成24年(2012年)1月(第45号)
Q:臨床心理士はどういったことをされているのでしょうか。
臨床心理士とは、文部科学省認可の財団法人日本臨床心理士資格認定協会から認定を受けた「心の専門家」の資格です。心に何らかの問題や課題を抱えている人を心理学の知識に基づいて援助する専門職で、一般的には「カウンセラー」として知られていることが多いのではないでしょうか。
各都道府県に臨床心理士会があり、平成23年(2011年)4月時点で全国に約23,000人の臨床心理士がおり、そのうち滋賀県での登録者数は約200人です。
臨床心理士は、病院など医療の分野や児童相談所などの福祉分野、スクールカウンセラーなどの教育分野などで活動しています。また最近では、企業などの産業・労働分野や司法や警察の分野で仕事をしている人もいます。その他、学校で学生を教えたり、私設のカウンセリングルームを開設するなど本当に幅広い分野で活躍しています。
Q:では実際にどのように仕事をされるのでしょうか。
大きく分けて三つの仕事があります。
まず「臨床心理査定」(アセスメント)ということをします。これは心理検査や面接、行動観察などを通じて、その人が心理学的にどういった状態にあるかを分析し、抱えている課題を明らかにしようとするものです。それにより本人が自分の状態を理解することを助け、その後の支援に役立てることができます。
次に「臨床心理面接」というもので、俗にいうカウンセリングです。先ほどの査定に基づいて、その人が抱えている課題を克服したり、生活しやすくしたり、心の成長を促したりといったことをします。心理療法には様々な手法がありますので、ニーズや目標を考慮し、適切な技法を選択したり、必要に応じてそれらを組み合わせて支援にあたっています。
もう一つは「臨床心理的地域援助」というものです。前述の二つが当事者を対象にしているのに対して、これは本人を取り巻く環境に働きかけるものです。例えば不登校の子どもに対する支援であれば、「学校」や「クラス」という環境に働きかけて調整したり、場合に応じて他機関等と連携したりします。
それ以外にそれぞれの分野で患者さんや家族、一般市民向けに心の健康に役立つことを知ってもらうための啓発をしていくというのも大切な仕事です。
Q:県の委託事業「こころのほっと相談会」をされていると伺いましたが。
昨今メンタルヘルスや自殺対策というものに、国を挙げて取り組んでいかなければいけないという気運が高まっています。滋賀県でも自殺対策に力を入れたいということで、昨年10月から受託している事業です。
滋賀県の自殺の現状を見てみると、自殺者の7割が男性であり、その中でも30代から50代の働き盛り年代の自殺者が多くなっています。こういった世代の方は何か問題を抱えていても時間がなかったり、気後れしてしまったりでわざわざ相談に行こうとされない、バリバリ仕事をこなす毎日の中で簡単に弱音を吐くことができない人が多いわけです。そんな人が仕事帰りや休日に立ち寄ってもらえるよう、夜間、休日に相談を受けています。
こころのほっと相談会は、あくまでも単発の相談会ですので、本格的なカウンセリングというよりは、相談者の方と一緒に気持ちを整理したり、専門機関を紹介したり、簡単なアドバイスをしたりしています。
一番の目的は自殺の大きな要因である「孤立」を防ぐことです。相談できる人がいないといった孤立以外にも、周りに人はたくさんいるんだけれども自分の悩みをなかなか話すことができない、そういった心理的孤立を防ぐ意味もあります。
昨年度は大津・草津・彦根の三カ所で合計22回開催し、延べ56人の方が相談に来られました。今年度は62回開催する予定で、半年を経過した時点で延べ60人の方が来られました。相談に来られる方の性別や年齢は様々ですが、家族や職場の人間関係など、対人関係全般に関する相談が多いです。また最近では、精神疾患を患っている方で、病院ではゆっくり話ができないからという方や病院に通っていたけれど今は中断しているといった方からの病気の相談も増えています。
Q:事業をしていただいている中で課題だと感じることは何ですか。
相談会に来てくださる方をみても、中高年の男性というのはさほど多くないのが実情です。やはりこういった世代の方にとっては「相談会」となるとまだまだ行きにくいのかなと思います。また「男は強くなければ」という意識の中で弱音が吐けず、ぎりぎりまで我慢して、ある日ぷつりと糸が切れて鬱(うつ)になってしまう、という方が多くいます。本当はその一つ前の段階で手を差しのべられればと思っているので、そういった方にどうやって気軽に相談に来てもらうかが大きな課題です。そのためには産業や教育との連携も大切になってきます。
Q:メンタルヘルスを維持するために大切なのはどういったことでしょう。
メンタルヘルスの維持ということで大切になるのがストレスマネージメントです。心に大きな影響を与える「ストレス」をどのようにコントロールするか、ということになります。みなさん「ストレス発散」は自然にされているかと思いますが、それ以外にも色々な対処の仕方があり、これらをバランスよく使い分ける必要があります。本当は子どもの頃から学校などでメンタルヘルスについて学べるといいのですが、日本ではまだまだ進んでいない状況です。今はストレス講座などがたくさんありますし、ぜひストレスについて知ってもらって、自分のストレスに目を向けるという習慣をつけてもらえればと思います。
またストレスに対して一番有効とされているのがいわゆる「ソーシャルサポート」つまり人とのつながりです。家族でも友人でも同僚でも近所の人でも、自分と親密なつながりがあって、悩みが相談できる人間がいるかどうかということはメンタルヘルスにとって大きな意味があります。
Q:メンタルヘルスに何らかの問題を抱えていたり、自殺を考えているような人は必ず何かSOSを発していると言われますが、どういったものなのでしょうか。
例えば職場であれば遅刻や早退、欠勤が多くなったり、今までできていたことでもミスが増えたり自分を責めるような発言をするなどということが挙げられます。他には生活全般の中で、睡眠のリズムが乱れたり、食欲がなくなったり、ぼんやりしている時間が多くなったり、人付き合いを避けるようになる、家での飲酒量が増えるなどの傾向があります。
さらに状態が進んでしまうと、思い詰めた表情になったり身の回りの整理をしたり、自分がいなくなったらという仮定の話をするなど危険な兆候が出るようになります。特にうつ状態の場合には、全く気力のない状態から少し元気になったときに、自殺することにエネルギーが向いてしまう場合があるので注意が必要です。
Q:そういったサインがある場合、周りはどう対応すればいいでしょうか。
やはり一番基本的なことは「声をかける」ということだと思います。誰も声をかけないでいると、どんどん孤立感が高まっていってしまうので、「どうしたの?」とか「仕事忙しい?」とか気軽に声をかけることが大切です。
その中で仕事がしんどいということになれば量を減らすなどの処置が必要になってくるわけですが、その際に本人とよく話をしないと、「自分はだめなんだ」と逆に追い詰めてしまうこともあります。コミュニケーションが非常に大事です。
そして、これは深刻だなと感じた場合には専門機関への受診を促すのがよいと思います。ただその時にもストレートに言われると傷つくこともあるので、「ちょっと心の疲れや悩みについて話だけしに行こうか」とやんわりと促すのがいいと思います。「精神科」が行きづらければ、地域のクリニックや心療内科でも構いません。
Q:家族の場合はどうでしょう。
家族の対応も先ほど話していたことと同じですが、家族の場合は本人との心理的な距離が近い分、複雑な部分もあります。特にうつなど病気の場合は、自分の身内が病気だということが受け入れられず、「気の持ちよう、気合いの問題」とか「怠けてるんじゃないか」と言ってしまうご家族も多いようです。そうすると本人は家族にも理解してもらえないのかとますます孤立感を深めてしまうことになります。本人にとって家族は一番身近な存在で理解してほしいのに、家族としては「信じたくない」との思いが強く、先ほどのような言葉で済ましてしまおうとする。こうした背景にはやはりメンタルな病気に対する偏見があると思うので、正しく理解していただきたいなと思います。
また「頑張れ」という言葉や腫れ物に触るような態度もよくないといえます。そう言ってしまうと、いったいどうしたら…となってしまいますが、大事なのは「私はあなたのことを見守っているよ、大丈夫」というメッセージを発することです。具体的な対応については専門のスタッフと相談するなどして学んでいけばいいと思います。
Q:周囲の対応もですね。
家族がメンタルヘルスの問題を抱えている時や同僚が休職から復帰した時などは、その周りも相応のストレスを感じて疲れてしまうものです。共倒れにならないためにもその人たちが疲れを打ち明けられる環境づくりが必要だと思います。
Q:最近は「ゲートキーパー」(悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人)の養成がいわれていますね。
はい、市町や保健所、医師会、薬剤師会など様々な場所で養成講座が開催されています。特に患者さんに身近な内科医(かかりつけ医)と精神科医がうまく連携できるよう、情報交換の場を設けています。
Q:県民の方へメッセージ
現在、日本には精神疾患で病院にかかっている人が年間300万人以上(滋賀は推定2万5千人)いると言われています。これは率にすれば40人に1人という割合で、病院に行っていない人も含めればもっと多くなります。こうした現状を知っていただき、メンタル面の病気というのは決して特別なものではなく、誰でもなりうるものだということを理解していただきたいと思います。
風邪をひいたり風邪気味で調子が悪い時には、普通に病院に行って診断をしてもらい、適切な治療を受けますよね。それと同じようにメンタルヘルスの場合でも、ちょっと具合が悪いなと思う時期があって病気に至るわけなので、専門家に聞いて治療を受けるのは自然なことだといえます。
ただ、どうしてもメンタルヘルスの場合は、わからないことが多く、どうしてしんどいのか、どうしたらいいのかと不安に感じてしまうのだと思います。その結果自分が安心したいがために、「気がおかしくなった」というようなレッテルを貼って、自分とは違う特別な人間だと遠ざけてしまう。それがやがてその人たちに対する偏見につながっていきます。しかし、それは情報不足が原因なので、わからないことがあれば遠慮なく専門家に聞いてほしいですね。精神科は行きづらいと思われがちですが、一歩踏み出してみれば「なんだ普通の病院と変わらないんだ」と感じてもらえるはずです。
最後に、人とつながっておくということがとても大切なんだということを強く感じます。一人ひとりのつながりが輪になって、そこにメンタルヘルスに関する正しい理解があれば、例えば風邪気味の人を心配して行われる会話が、精神的にしんどい時でも自然と行われるようになる。そうすれば孤立や自殺を防ぐことにつながるのではないでしょうか。
☆☆☆人権カレンダー1月☆☆☆
今回はメンタルヘルスと人権について特集しましたが、メンタルヘルスを害する大きな要因の一つが職場でのハラスメント(いじめ・嫌がらせ)です。最近では、「パワーハラスメント」(パワハラ)として認知されるようになってきましたが、以前は「指導」の名目で問題が表面化していなかったこともあり、まだまだなくなっていないのが現状です。
パワハラは個人を傷つけるだけでなく、職場全体の雰囲気を悪くし仕事の能率や企業イメージまでも低下させてしまいます。私たち一人ひとりが互いに相手を尊重する気持ちを持ち、パワハラのない職場づくりをしていきましょう。
県内外で開催される研修会、啓発イベント等を案内します。
日時:1月28日(土曜日)10時00分~12時00分
場所:滋賀県立男女共同参画センター調理実習室
参加費:500円
要申し込み(1月25日まで)
期間:2012年9月28日(金曜日)まで
期間:1月31日(火曜日)~3月25日(日曜日)
日時:1月22日(日曜日)14時00分~16時45分(13時00分より受付)
場所:ザ・フェニックスホール
要申し込み(1月20日まで)
日時:1月21日(土曜日)13時30分~15時30分
あけましておめでとうございます。
昨年は東日本大震災という国難ともいうべき未曾有の災害により、尊い命が多数失われるとともに、避難生活や原発事故の問題を通して、人権について深く考えさせられる年となりました。また世界的にも、中東の国々で相次いで起こった民主化運動や格差社会に対する抗議デモなど、人権が尊重される社会に向けた大きなうねりが起こった年でもあります。
今年はオリンピックイヤーです。国内外ともに明るいニュースで溢れ、人々にとって幸せな年になることを願うばかりです。
編集・発行/滋賀県総合政策部人権施策推進課