「近江輿(よ)地志略」は享保(きょうほう) 8年(1723)、膳所(ぜぜ)藩主・本多康敏(ほんだやすとし) の命をうけて藩士の寒川辰清(さむかわとききよ)(1697〜1739)が編纂を始めた地誌。享保19年(1733)に、101巻100冊の大作として完成した。近江国全域を対象にした初の本格的な地誌で、本県における地理研究の基礎文献として著名である。
本品は紺色表紙を四穴綴(しけつと)じする袋綴(ふくろとじ)冊子装本で、本文は良質の楮紙(ちょし)を料紙(りょうし)に丁寧な運筆で清書される。装丁、料紙、筆跡などすべての点で、県立琵琶湖文化館が保管する滋賀県所有本(100冊のうち巻35〜40の6冊を欠く)の僚巻(りょうかん)(つれの本)と考えられ、浄光寺本と滋賀県所有本とを合わせると、もと膳所藩が藩庫(はんこ)に保管していた寒川辰清自筆本100冊が総て揃うことになる。
滋賀県における基本的地誌の原本を構成する、重要資料の一部として、本県の文化史、科学史、地理学史上極めて貴重な存在である。