仏菩薩を刺繍であらわした繍仏(しゅうぶつ)である。繍仏はインドを起源とし、わが国でもすでに飛鳥時代より製作されていたことが現存作品から判明する。繍仏の制作は平安時代に入ると下火になったようであるが、鎌倉時代には浄土教の高揚や庶民信仰の普及に伴い、阿弥陀如来や名号を題材とした繍仏が盛んに製作された。
本品は平絹の下地に、紫雲に乗って来迎する阿弥陀三尊を刺繍であらわす。阿弥陀如来は頭光を負い、雲上の踏割蓮華座に立ち、第一・二指を捻じて来迎印を結ぶ。向かって左の勢至菩薩は腰をやや低くして合掌し、右の観音菩薩は腰をかがめて両手で蓮台を捧げ持ち、ともに雲上の踏割蓮華座上に立つ。画面右下、観音菩薩の眼前には、往生者の女人が端座合掌して来迎を待つ姿であらわされている。刺繍糸は金茶・赤・紅・青・黄・緑色等、撚りのない釜糸が使われており、一部では撚り糸も交える。なお、阿弥陀三尊の頭髪、往生者の頭髪、阿弥陀如来の袈裟の一部は、刺繍糸の代わりに毛髪を用いた、いわゆる髪繍の技法であらわされる。
阿弥陀三尊来迎図の繍仏は、鎌倉時代から室町時代にかけての作品が全国で20例ほど確認されている。保存状態は良好とはいえないが、県内では数少ない繍仏の遺品として貴重である。