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アール・ブリュットネットワーク メールマガジンインタビュー企画

「あなたにとってアール・ブリュットとは?」【第1回後編】

様々な立場の方に、「あなたにとってアール・ブリュットとは?」をテーマにアール・ブリュットに関する考え方や取組等についてお話を伺う企画の第1回目。
前回に引き続き、ゲストにボーダレス・アートミュージアムNO-MAアートディレクターのはたよしこ氏をお迎えし、これまでアール・ブリュットと関わってきた経緯や今までのお仕事などを中心に、はたさんにとってのアール・ブリュットとは何かを伺います。
この企画を通して、アール・ブリュットに関する様々な考え方を知っていただくとともに、アール・ブリュットやその周辺の人々の活動記録として情報の蓄積を行うことを目指します。

はたよしこ氏プロフィール

はたよしこ氏

1949年生まれ。絵本作家、「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」(近江八幡市)アートディレクター、すずかけ絵画クラブ主宰。

著書に『DNA パラダイス』(日本知的障害者福祉協会、2003年)、『アウトサイダー・アートの世界―東と西のアールブリュット』(紀伊国屋書店、2008 年)などがある。地元地域はもちろん全国的にも展覧会活動を活発に行い、近年その美術的評価が高まっている。また、国内外でアール・ブリュット作品を紹介し、展覧会やワークショップなどを行なっている。


前編では、はたさんがアール・ブリュットに出会われてから、ボーダレス・アートミュージアムNO-MAのアートディレクターに就任されるまでのお話を伺いました。 
 <第1回前編(ゲスト:はたよしこ氏)

<後編>

アール・ブリュットネットワーク事務局(以下、「事務局」)
絵本作家や調査などで関わられるようになりましたが、アートディレクターへと転身すると立ち位置が違います。苦労された点はありますか。

はたよしこ氏(以下、「はた」)
初めての企画展では、NO-MAがある近江八幡は観光地ですが、こういう美術館があることは知らないだろうから、大物に声を掛けて見ようということで森村泰昌さんにお願いして作品を置いてもらいました。
しかし、思いとはうらはらに観覧者は誰も来ない結果でした。知名度もなく、建物も美術館とは思われない町屋ですし、宣伝するにも方法がなく、難しかったですね。期間が夏でしたので暑いということも重なって人が来なかったんでしょうかね。一日に一人や二人でしたから。この先どうすればいいのか、調子に乗っていたわたしも不安でした。

事務局:
アール・ブリュット・ジャポネ展(注1)がきっかけで変わったのでしょうか?

はた:
それは大きかったです。少しずつ来場者数は増えていたのですが、アール・ブリュットやアウトサイダーアートという言葉が浸透し始めたきっかけはアール・ブリュット・ジャポネ展であったと思います。

事務局:
現在もNO-MAでユニークな着想で企画展をされていますが、発想の原点あるいはテーマのアイディアはどこから湧いてくるのでしょうか?

はた:
哲学的なものではなく、インサイダーとアウトサイダーの双方が、飲み込みやすいテーマを考えています。快走老人録も2回目を迎えましたし、入口は平たく解り易くしておいて、入ってしまえば観客の感じ方、楽しみ方はワイドになると考えます。入り口は「そそられるもの」をというのは最初から考えています。

事務局:
今年の4月~8月に開催されていた企画展「鳥の目から世界を見る【http://www.no-ma.jp/?p=10964(NO-MAホームページへリンク)】はボーダレスが色濃く出ていたと思いますが、このアイディアはどこからきたのでしょうか?

はた:
作品調査で色んな場所に行きますが、鳥瞰図のような絵を描く方で何度も取り上げている方ですが、辻勇二さんの作品はおもしろいと思っていました。そこで鳥瞰図のような絵を集めてみようと探し始めました。その時から山口晃さんは念頭にありました。戸舎清志さんの作品を見せてもらいに彼の自宅に行くと、あまりにも作品が膨大であったので蔵を使おうなど、基本のイメージやアイディアはキープしたまま、展示方法を模索しながらまとめあげていきました。

事務局:
蔵に展示されていた戸舎さんの作品は一段上がったところから見下ろすしつらえになっていましたが、これはまさに鳥の目から世界を見ている雰囲気を味わえました。

はた:
戸舎さんの作品は蔵という特別な空間を使おうとは思っていました。並べてみたのですが、あとひと工夫ほしいなというところで観客が見下ろすしつらえを考えました。

事務局:
戸舎さんの作品は緻密さが感じられるのですが、制作中は定規など使われて描かれているのですか。

はた:
はい。定規は使われていますが、下書きはしていないです。隅から描き始め、定規をうまく使って、凄いスピードで絵を描き広げていきます。
平安時代の洛中洛外図に見られるような世界全体を描きたいという思いは今でも、障害がある人も、現代アートの作家にも共通しているなと思います。

事務局:
今までのお話を伺って、はたさんは新しいことを始めるときには躊躇せず、飛び込んでおられるように感じます。

はた:
私も子どもの時は人見知りが激しくて友達を作るのも躊躇して用心深かったんです。ですが、今はアール・ブリュット作家たちの強さや、あっけらかんとしていて人とは違うことをやるという、計算がまるでないところにも影響され、自分は自分でいいのだということを教わりました。

事務局:
それでは、最後の質問になりますが、はたさんにとってアール・ブリュットとは何ですか。

はた:
人生を変えさせられたものです。会話でコミュニケーションがとれない代わりに造形物として描きだす訳ですが、作品について語ることはないし、どういう気持ちで作ったかというフォローアップもしない。私が深みにはまったのはそこですね。これで伝わるかどうか迷わないし、ただ自分の頭の中にあるものをストレートに表現する迷いの無さ。それが私がアール・ブリュットの深みに連れ込まれていった魅力です。
迷いがなく作品を作るということはたいへん難しいです。私たちのような者は他の作家と比べて、似ていたら違うやり方を計算したりするもので、視野が広いことがかえって邪魔になっています。しかしアール・ブリュットの作家は視野が狭いぶん核心が強いし、ゆるがない。だから太刀打ちできない感じがします。
彼らが持つゆるぎのなさが、心をつかんで離さない。それがアール・ブリュットの魅力なんでしょうね。

注1:アール・ブリュット・ジャポネ展は2010年3月から翌年1月まで、フランス・パリ市のアル・サン・ピエール美術館で開催された。滋賀県をはじめ20都道府県から、主に障害がある人たちの絵画や陶芸など約800点が展示され、好評を博した。【主催:アル・サン・ピエール美術館、日本側事務局:滋賀県社会福祉事業団(現:社会福祉法人グロー)】

お問い合わせ

滋賀県文化スポーツ部文化芸術振興課
電話番号:077-528-3340
FAX番号:077-528-4833
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