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シリーズ人権教育

滋賀県教育委員会発行の保護者向け情報誌「教育しが」に掲載しています。

令和2年度(2020年度)

4月「ぼくの大切なもの」

 ぼくのじいちゃんの家はすぐ隣にあります。家どうしが庭でつながっていて、いつでも会いに行けます。幼稚園の頃のぼくの楽しみは、じいちゃんの膝の上でその日のできごとや好きな図鑑の話をすることでした。小学生になると、勉強や友だちとの悩みなども相談するようになりました。じいちゃんはいつも静かにうなずきながら、最後には「だいじょうぶ。だいじょうぶ。」と頭をなでてくれました。するとぼくはいつもほっこりとした温かい気持ちになれるのでした。

 ぼくが四年生になる頃から、じいちゃんはベッドで寝ていることが多くなりました。ぼくはじいちゃんの背中をさすったり肩をもんだりして、じいちゃんの部屋で過ごしました。そんな時、いつもぼくが大人になったときの話になり、ぼくとお酒を飲みながら話をするのがとても楽しみだと言っていました。

 夏、じいちゃんの元気がどんどんなくなってきました。「だいじょうぶ?」と聞いても静かにうなずくだけでした。背中をさするとすごく痩せていて、とてもびっくりしました。

 数日後の朝、ママがじいちゃんの家にバタバタと行き来していたので、「どうしたの?」と聞くと「じいちゃんが天国にいってしまったの。」と言いました。大急ぎでじいちゃんの家に行くと、じいちゃんはいつものように優しい顔でまるで眠っているようでした。でも、話しかけても何も返してくれません。❝死ぬってどういうこと?じいちゃんはどこに行ったの?❞その時のぼくにはわからないことばかりでした。ただ、膝に座って話を聞いてもらうことも、背中をさすることももうできなくなってしまったことは分かりました。

 ぼくは五年生になりました。登校班や委員会活動などでこれまで以上に頼られることが増えました。登校班では班長になり、班のみんなを安全に連れていかなければならないので、毎日とても緊張しました。

 ある日の朝、「みんな並んで。」とぼくが言っているのに、一人の一年生がなかなか聞いてくれません。何回言っても全く聞いてくれず、そのうちに他の一年生も勝手なことをしだしました。「ぼくの気持ちなんてみんなわかってくれない。もう嫌だ!」とイライラした気持ちで一日を過ごしました。

 夕方、隣の家に久しぶりに行ってみました。リビングには穏やかな笑顔でぼくを見つめるじいちゃんの写真がありました。じっと見ていると、「だいじょうぶ。だいじょうぶ。」とぼくに語りかけてくれている気がしました。すると、イライラしていた気持ちがふっと軽くなり、ふんわりと温かくつつまれたような気持ちになりました。

 じいちゃんはもう隣にはいないけれど、膝の上に座っていろいろな話を聞いてもらった後の、あの何とも言えないほっこりした気持ちは、ずっとぼくの中に残っていて、ぼくを温めてくれているんだな、とそのとき気がつきました。

 「だいじょうぶ。だいじょうぶ。」

 心の中でつぶやきながら、明日も一日がんばるよ。じいちゃん、ありがとう。

2月「私を支えているもの」

 私は子どもの頃から人よりできないことばかりで、「なんで自分はこんななんやろう」「自分はあかんなあ」と思うことがよくありました。

 小学生の頃、学習参観で縄跳びの発表会がありました。毎日何度も練習したけれどうまくはならず、参観当日も家族の前で失敗してしまいました。くやしくて、はずかしくて、涙がこぼれてきました。

 中学生の頃、クラス対抗全員リレーがあったのですが、私のところで順位を大きく下げてしまい、途中まで上位にいた私のクラスは入賞を逃してしまいました。みんなに合わす顔がなくて、なかなかクラスの輪に戻ることができませんでした。

 高校生の頃、勉強も部活も何をやってもうまくいかず、「もういいや」という気持ちになり、学校をさぼってしまうこともありました。

 こうして振り返ってみると、できないことだらけ、失敗だらけの人生をずっと送ってきたようですが、今の私はいやな思いばかりを背負って生きている訳ではありません。

 小学校の時は、「跳べなくてもいっぱい練習していた姿が何よりもうれしかったよ。」とがんばりを認めてくれて、「何事も手を抜かないあなたが大好き。」と抱きしめてくれた家族がいました。中学校の時は、「あなたが力を出し切って、最後まで精いっぱい走っている姿に感動した。」と言ってくれた先生がいました。高校の時は、心配して家まで様子を見に来てくれた友だちがいました。「放っておいて。」と言っても「放っておける訳ないやろ。」と真剣に私の心のもやもやを聞いてくれました。その度に私は心が何とも言えず温かくなるのを感じたのでした。

 こんなことも思い出しました。中学生の頃、お年寄りの介護施設へボランティアに行きました。引っ込み思案だった私はどう接したらよいかわかりませんでした。でも、勇気を出して「おばあちゃん、肩もんであげようか。」と言いました。しばらくもんであげていると、「ありがとうね。あんたはやさしい子やなあ。」と言ってくれました。その時も同じように心がぽっと温かくなりました。

 

 近ごろ「自尊感情が大事だ」とよく聞きます。調べてみると「長所も短所もひっくるめて自分自身をかけがえのない存在と感じること」とあり、それは人との関わりの中でこそ育まれるものだと書いてありました。社会人になった今でも、自信が持てず自分ってだめだなと思うことがあります。でも、「それも含めて自分、大切な自分なんだ」、そして、心が温められたこれまでの経験を思い返しながら、「自分のことをもっと私自身が認めてみてもいいんじゃないのかな」とも思えるのです。すると、何だか心が軽くなり力が湧いてくるような気がしました。

 明日も仕事です。こんな自分を支えてくれている人とのつながりを大切にして、自分らしく一歩ずつ前に向かっていこうと思います。

12月「ぼくの『でこぼこ』」

 ぼくはよく忘れ物をする。ぼくが教科書を忘れると、隣のケンちゃんがいつも見せてくれる。先週は、ぼくが登校中につかまえた大きないもむしを自分の机の中でこっそり飼っていたのがばれて、教室中が大騒ぎになった。その時はケンちゃんが「これ、教室で飼おうよ。ぼく、いもむしが大きくなるとこ見てみたい!」と言ってくれたおかげで騒ぎが収まった。

 今日、ぼくはまた教科書を忘れてしまった。ケンちゃんはいつもどおりぼくに教科書を見せてくれた。ケンちゃん、きっとあきれてるだろうな。嫌われたらどうしよう……。

 昼休み、ぼくはケンちゃんに話しかけた。「ケンちゃんごめん。ぼく、忘れ物ばっかりして……。」「え?ぼく、コウちゃんに見せるの全然嫌じゃないで。」「でもぼく、助けてもらってばっかりで何にもしてあげられへん…。」するとケンちゃんはこう言った。

 「コウちゃん、いつもぼくに『ありがとう』って言ってくれるやん。だからぼく、貸したり見せたりするだけやのにすごくいいことしたような気持ちになれるねん。ぼくの方が『ありがとう』やわ。あ、そうや。このあいだコウちゃんが教室にいもむし持ってきたとき、ぼく、初めていもむしが葉っぱ食べてるとこ見てん。はじめは怖かったけど、一生懸命食べてるとこ見てたらなんかちょっとかわいく思えてきて、父さんに昆虫図鑑ほしいって言ったらびっくりされてん。それでコウちゃんのことを話したら『その子と同じクラスでよかったね。』って父さんニコニコしてた。ぼくはまだいもむし触れへんけど、コウちゃんはうまくつかめるもんなあ。すごいなあ。」

 ぼくはびっくりした。ものを借りたりしたらお礼を言うのは当たり前だと思ってたけど、ぼくがお礼をきちんと言うから、ケンちゃんはいつも見せてくれてたんだ。いもむしのことも、お母さんからは「虫を触ってる暇があったら勉強しなさい。」って言われてたから、虫のことで感心してくれる人がいるなんて思ってもみなかった。

 ぼくは自分のことを、苦手なことがいっぱいあってダメなやつだってずっと思ってた。でもケンちゃんとの話で、実はぼくも人に喜んでもらったり、役に立ったりしてたんだってことがわかって、とてもうれしい気持ちになった。

 ぼくらの話を聞いていた担任の先生が「二人はお互いの『でこぼこ』を助け合えるいいコンビだね。」と言ってくれた。「いいコンビ」だなんて照れるなあと思っていると、続けて先生が「まるでパズルみたいだね。」って。そうか。パズルはでこぼこどうしでつながってるもんな。人にも「でこぼこ」があるからつながれるのかもしれないな。

 忘れ物が多いのは直したいけど、おかげでケンちゃんともっと仲良くなれた。今日、ケンちゃんといもむしのえさを採りに行く約束をした。早く放課後にならないかな。

10月「正しいと思っていても・・・」

7月「道しるべ」

4月「おじいさんとの出会い」

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お問い合わせ
教育委員会事務局 人権教育課
電話番号:077-528-4592
FAX番号:077-528-4954
メールアドレス:ma02@pref.shiga.lg.jp
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