新規カセット式[18F]FDG自動合成装置F200の開発 加川信也・杉本幹治1)・小田敬2) ・新屋洋2) ・田中明2) 1)千葉科学大学2)住友重機械工業(株)
PET検査の臨床上の有用性と医療経済効果により、2002年4月に2-[18F]fluoro-2-deoxy-D-glucose([18F]FDG)を用いるPET検査の保険適用が開始され、それに伴い、国内での施設数及び検査数が増加している。施設によっては、放射性医薬品合成に習熟していない薬剤師の増加や1日に複数回合成する必要が生じており、医療用具として、簡便に複数回合成できる[18F]FDG自動合成装置の開発が求められている。従来、このような仕様を有する装置は海外の製品しかなく、国産で初めて新型のカセット式[18F]FDG自動合成装置を開発して性能を評価した。
[18F]FDGの合成法としては、[18O]H2O に重陽子を照射し18O(p,n)18F核反応によって製造した [18F]F-イオンを利用するフッ素アニオン法1)により行った。つまり、得られた担体無添加の[18F]F-を含むターゲット水をイオン交換樹脂に通し[18F]F-を吸着させ、炭酸カリウム水溶液で脱離し、[18F]KFとして反応器に導入する。この際、[18O] H2Oは、高額なため、回収し、蒸留および精製して再利用される。次いで、カリウム捕獲剤であるKryptofix 222を加え、濃縮乾固して溶媒を留去し、反応基質である1,3,4,6-tetro-O-acetyl-2-O-trifluoromethansulfonyl-β-D-mannopyranose(mannose triflate)の無水アセトニトリルを加えフッ素化を行う。得られた反応生成物を水酸化ナトリウムで加水分解し、中和および不純物を分離精製する。通常加水分解工程に使用する塩酸の代わりに、水酸化ナトリウムを使用するアルカリ加水分解法2)を採用することで、酸加水分解時の副反応物である2-Chloro-2-deoxy-D-glucose(ClDG)の生成が低減されること、および穏和な温度条件で短時間合成が可能である。
<合成条件>
装置
サイクロトロン:住友重機械製 CYPRIS HM18型
自動合成装置:住友重機械製 F200型 (プロトタイプ機)
照射条件
加速エネルギー(プロトン):18 MeV
合成試薬
・95 % 18 O-H2O : 2 mL
・K2CO3 : 2.8 mg
・Kryptofix222 : 20 mg
・mannose triflate : 20 mg
・0.3 N NaOH : 4 mL
・注射用蒸留水 : 10 mL
今回使用したプロトタイプ機のF200は、サイクロトロンから生成される[18F]F-イオンを用いてコンピュータ制御による[18F]FDG自動合成装置である。合成プロセス内の接続部を1回使用のディスポーザブルカセット化したものであり、合成前後の配管洗浄操作が不要である。また、プレパックド試薬の使用によって、試薬の調整が非常に簡便である。
【放射化学的純度】 95%以上
【放射化学的収率(EOS)】 60 ± 5%
【FDG合成時間/準備時間】 30分以内/15分以内
<特徴>
・ディスポーザブルのカセット、反応器、カラムを使用
・プレパックド試薬(色別試薬バイアル)により、試薬の調整が簡便
・アルカリ加水分解により、穏和な温度条件で短時間合成が可能
日本アイソトープ協会医学・薬学部会サイクロトロン核医学利用専門委員会が公表した『サイクロトロン核医学利用専門委員会が成熟薬剤として認定した放射性薬剤の基準(2001年改定)』3)を満たす
国産の新規カセット式[18F]FDG自動合成装置F200は、カセット式の簡便さを持ちつつ、従来から使用されている住友重機械社製[18F]FDG自動合成装置F100レベルの性能を兼ね備えている。従って、 今回新たに開発されたF200は、放射性医薬品合成に習熟していない者でも簡便に取り扱いができ、クリニカルPET対応の優れたカセット式[18F]FDG自動合成装置である
1)Hamacher K, Coenen HH, Stocklin G. Efficient stereospecific synthesis of no-carrier-added 2-[18 F]-fluoro-2-deoxy-D-glucose using aminopolyether supported nucleophilic substitution. J Nucl Med 27, 235-8. (1986).
2)Füchtner F, Steinbach J, Mäding P, Johannsen B. Basic hydrolysis of 2-[18F]fluoro-1,3,4,6-tetra-O-acetyl-D-glucouse in the preparation of 2-[18 F]fluoro-2-deoxy-D-glucose. Appl Radiat Isot 47, 61-66 (1996).
3)日本アイソトープ協会医学・薬学部会サイクロトロン核医学利用専門委員会:サイクロトロン核医学利用専門委員会が成熟薬剤として認定した放射性薬剤の基準(2001年改定). RADIOISOTOPES 50, 190-204 (2001).