ENGLISH

研究所報2003

Crossed cerebellar diaschisisにおけるAcetazolamide血流増加反応と血液量及び酸素代謝の関係 山内浩・岡沢秀彦・杉本幹治 ・高橋昌章・岸辺喜彦・工藤崇

1.はじめに

脳主幹動脈閉塞症においてAcetazolamideによる血流増加反応は脳循環障害の評価法として一般臨床の場で広く用いられている。Acetazolamide血流増加反応低下は、灌流圧低下に起因する代償性の血管拡張の存在を示すと考えられている。しかし、酸素代謝の低下もCO2産生の減少を介してAcetazolamideによる血流増加反応の低下を引き起こす可能性がある。(図1)


我々は、脳主幹動脈閉塞症では、脳血液量増加(血管拡張を反映)と酸素代謝の低下が、独立して、Acetazolamideによる血流増加反応低下と関連していることを明らかにした(図2)1).これはAcetazolamide血流増加反応を、血管拡張状態の指標として使用する際の弱点となる。

脳主幹動脈閉塞症において、梗塞のない大脳皮質における酸素代謝低下の原因には、1) 軽微な虚血性変化(選択的神経細胞障害)による一次低下と、2) 神経連絡を介する機能低下による二次低下があるが、それぞれのAcetazolamide血流増加反応に及ぼす影響は明らかではない。原因1)を抽出して検討するのは困難だが,原因2)は代表的モデルとしてのCrossed Cerebellar Diaschisis (CCD)を検討する事で可能である。CCDは、テント上脳梗塞が原因で、大脳-橋-小脳路を介して反対側小脳に機能低下が生じ、その結果血流と代謝の低下が認められる現象である2)。CCDでは、神経入力減少に起因する酸素代謝低下の結果、血管収縮が生じ血液量の低下が起こる。本研究の目的は、CCDにおいて血液量と酸素代謝がAcetazolamideによる血流増加反応とどのように関連しているかを明らかにすることである3)

2.対象と方法

テント上一側性脳梗塞患者で反対側小脳に血流低下を有する17名(年齢61±12歳)を対象とした。PETを用いて,baselineと1gのAcetazolamide静注10分後の脳血流を測定し、血流増加量(絶対量と%増加率)を算出した。重回帰分析を用いて、血流増加量とPETを用いて測定したbaselineの血液量および酸素代謝率との関係を検討した。

3.結果

 1)CCD(対側小脳半球)においては、同側小脳半球と比較して、baselineの血液量と酸素代謝率は有意に減少していた。Acetazolamideによる血流増加絶対量は減少していたが、血流%増加率には差がなかった(図3)。

 2)単変量解析:Acetazolamideによる血流増加絶対量は、baselineの血液量と有意に負相関していた。血流%増加率は、baselineの血液量と酸素代謝率の両者と、有意に負相関していた(図4)。

 3)baselineの血液量と酸素代謝率の両者が、Acetazolamideによる血流増加絶対量と独立して、有意に相関していた:血液量は負相関し、酸素代謝率は正相関していた。血液量と酸素代謝率を含む重回帰モデルにおいて、脳血液量の寄与は20.5%で、酸素代謝率の寄与は32.5%であった(表1)。

4)Acetazolamideによる血流%増加率に関しては、酸素代謝率の影響は有意ではなかった。血液量は有意に%増加率と負相関し、その寄与はより大きかった(62.3%)(表2)。

4.結論と考察

CCDにおいて、Acetazolamide血流増加反応の絶対量は酸素代謝と血液量を反映し、%増加率は血液量を反映する。ゆえに、%増加率で判定されたAcetazolamide 血流増加反応は、deafferentationにより代謝が低下した領域においても、血液量を推測する指標として有用と考えられる。しかし、絶対値による判定は、酸素代謝の関与が大きく、血管拡張の程度の評価には適当でない。
脳主幹動脈閉塞症において、Acetazolamide 血流増加反応%増加率の低下に酸素代謝低下が関与し解釈を困難にするが、その主因として、 deafferentationよりも、軽微な虚血性変化(選択的神経細胞障害)が考えられる。Acetazolamideによる血流増加反応により脳主幹動脈閉塞症の脳循環障害の程度を正しく評価するためには、選択的神経細胞障害の評価法の確立が必要である。

参考文献

1) Yamauchi H, Okazawa H, Kishibe Y, Sugimoto K, Takahashi M. Reduced blood flow response to acetazolamide reflects
pre-existing vasodilation and decreased oxygen metabolism in major cerebral arterial occlusive disease.
Eur J Nucl Med 29: 1349-1356, 2002.
2) Yamauchi H, Fukuyama H, Kimura J. Hemodynamic and metabolic changes in crossed cerebellar hypoperfusion.
Stroke 23: 855-860, 1992.
3) Yamauchi H, Okazawa H, Sugimoto K, Kishibe Y, Takahashi M. The effect of deafferentation on the blood flow response to
acetazolamide. AJNR Am J Neuroradiol 25: 92-96, 2004.


滋賀県立総合病院研究所 〒524-8524 滋賀県守山市守山5-4-30 Tel:077-582-6034 Fax:077-582-6041

Copyright(c) 2004- 2019 Shiga Medical Center Research Institute, All Rights Reserved.