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【講演会】地方自治の黎明―明治期滋賀の町村のかたち―

講演会2014ポスター

シリーズ「歴史的文書を考える」第7回講演会

平成26年11月14日(金曜日)(会場:新館7階大会議室)

県政史料室では、県が保有する公文書「歴史的文書」の保存・活用を促進するため、毎年講演会を開催してきました。今年は京都橘大学教授の高久嶺之介氏を講師に迎え、明治以降の地方行政のあり方を歴史的に振り返る機会を設けました。来場された皆さんに、当県の町村自治の伝統と歴史的文書への理解を深めて頂く機会となりました。

滋賀県の歴史的特徴

講演会2014写真

滋賀県は景観としての集村に象徴されるように、江戸時代から村の強固なまとまりがある地域です。また商業活動が盛んであるとともに、農業生産力も高く、比較的豊かな地域でした。大きな地主はおらず、自小作の比率が高いのも特徴です。一方自然災害は多く、常に河川の氾濫に悩まされ、干ばつ時には上流・下流の水争いが絶えませんでした。

明治初期の県令として著名な人物が、初代の松田道之と二代目の籠手田安定です。彼らはあまり無理なことをしていない点が特徴です。その典型的な政策の1つが、区制の実施でした。全国的には県域をいくつかの大区に分け、その下に小区が置かれましたが、滋賀県では幕藩体制の町村には何の手も加えず、郡の下に小区があり、その下に従来からの町村があるという点に特徴がありました。

滋賀県の文明開化

ところで、明治新政府による「文明開化」諸政策が地域の中に入ってくる際、民衆の反発や抵抗がよく指摘されます。しかし滋賀県では、水や山をめぐる争いは無数に起こりましたが、新政策に対する騒擾は現在のところ全く見つかっていません。全国的にもそのような府県の方が多いと思われますが、滋賀県の場合、新政策の無理な押し付けがされなかった点が大きかったといえます。

例えば小学校の設立は、明治6年(1873年)からゆっくりと進み、全国と比較しても遅い方でした。また学校の維持運営は、各学区や住民に任されている度合いが強く、授業料が徴収されない場合も多かったようです。運営費は貧富に応じて集められ、富裕層による多額の寄付もなされました。

その他、地域によっては、小学校を支える独自の取り組みもなされました。例えば神崎郡金堂村では、田畑を他村の者に売却した場合、その売代金の1割を学校資金として出金することになっていました。犬上郡高宮村では、村人から集めた金銭で講を設け、小学校の維持をはかっていました。このように滋賀県では、「文明開化」諸政策の柔軟な運用がなされたため、大きな反発は生じなかったものと思われます。

町村会の開設はなぜ遅かったか

滋賀県では、明治12年(1879年)5月16日に「町村会規則」を布達していますが、町村会の開設を義務付けませんでした。そのため明治16年時点で町村会が開設されたのは、1,685町村中わずか22町村(約2%)で、恐らく全国最低クラスだと思われます。

それでは、なぜ滋賀県では町村会が開設されなかったのでしょうか。それは村組(町組)や伍組(五人組)を利用した合理的運営が既になされていたからなのです。例えば神崎郡金堂村では、村内に東組・北組・西組の3つの村組を設け、さらに各村組には3つの伍組が設立されていました。各村組には惣代・副惣代が計6人、各伍組には伍長代が計9人、伍長が計34人選出されています。金堂村の重要事項は、戸長役場と正副惣代が参加する惣代集会で話し合われ、さらに下部機関である伍長集会にかけられることもありました。蒲生郡日野大窪町でも、町内を24町に分け、町ごとに町代と呼ぶ人物を選出していました。戸長はこの24人と協議し、過半数でさまざまな議決を行っていたようです。このように滋賀県の町村では、江戸時代より続く独自の「集団的行政運営」がなされており、町村会の開設を必要としなかったのです。

町村合併以後の町村

明治21年(1888年)の町村制施行にともない、滋賀県では1,675町村が195町村に減少します。町村合併により拡大した区域を治めた町村長は、明治・大正を通じて名誉職がほとんどでした。名誉職とは町村自治の担い手の役職を、「無給」で義務として担任させようとした制度です。名誉職は「無給」であるので毎月の給料は支給されませんが、報酬を数箇月単位でもらうことが可能でした。しかも報酬は、原則としてその町村で決めることができたので、融通無碍に報酬額を設定することができました。また名誉職町村長の場合、町村制の制度を使えば、他の町村の人物でも、いかなる階層の人物でも就任させることができました。滋賀県では、地域の実情に応じて町村長の役割を変更できるよう、名誉職制度をしたたかに活用していたのです。

以上のように、江戸時代より町村自治が発達していた滋賀県では、明治維新後も従来の仕組みを生かして、柔軟な地方行政が行われていました。初期の県令たちも、そのような町村自治を壊すより、それを生かすことの有用性をよく理解していたのです。

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