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【コラム2】県民とGHQ

GHQの滋賀県進駐は、当時の県民に、戦前とは全く違う環境と生活をもたらしました。大切な土地や施設を接収され、提供を余儀なくされた人々や、進駐軍のなかで労務者として働く道を選んだ人々など、その人生はさまざまでした。今回は、接収を受けた県民の苦労や、進駐軍日本人労務者の環境に焦点をあてたいと思います。

接収を受けた県民

GHQが滋賀県に進駐して以来、県民には様々な影響がありました。特に、所有する施設や土地を接収された場合は、ほぼ強制的に明け渡さなくてはなりませんでした。そうしたものの中には、接収が解除された後に補償問題へと発展したものもあります。

例えば、昭和21年(1946年)に、GHQの宿舎として接収された大津市の八新亭には、世に名高い100本以上の盆梅がありました。この盆梅は、そもそも膳所藩医生駒家が江戸時代後期より育成していたもので、膳所の名物として知られていました。それを昭和8年に八新亭の経営を担う佐々木家が、ぜひにと所望し、盆梅の「輿入れ」として当時の価格で結納金5万円を収め、披露宴までひらいて譲り受けたそうです。以来、その盆梅は大切に育成されていましたが、GHQの接収を受け、同27年に接収解除され持ち主の佐々木家に返還されるまでの6年間、GHQの管理下に置かれました。結果、返還された昭和27年には、盆梅のほとんどは失われ、佐々木家は2000万円近くにおよぶ梅木と鉢の請求を、大阪調達局に起こしています。調達局は、GHQが使用する施設の管理を行う国の機関であり、当時の県民は、GHQや県ではなく、国を交渉相手として補償を求めなければなりませんでした【昭06-15(43)】。また、英進駐軍の保養クラブとして接収されていた柳屋ホテルは、昭和21年7月に接収されましたが、翌年3月、失火のために全焼し、その接収に終わりを告げます。ホテルに支払われた保険金は434万円でしたが、ホテルの求めた補償額には到底及ばないものでした【昭06-14(1)】。

さらに、農家の人たちにとって土地を接収されることは切実な問題でした。昭和21年に柴野和喜夫知事に提出された、皇子山に住む農家の人たちの嘆願書では、離農者の続出や経済的に困窮することを憂い、代用の土地を求めています。特に、この地域は、戦前から日本軍部に用地を買収されており、長く続く接収は死活問題でした【昭和06-16】。

こうした史料からは、なかば強制的に接収を受け、所有する施設や土地を提供した人々の困難な状況がうかがい知れます。

進駐軍で働く人々

昭和20年の進駐以来、GHQでは多くの日本人が働いていました。接収された琵琶湖ホテルや近江舞子ホテルなどでは、進駐軍が生活するためのホテル業務提供が契約され、ガードマンや通訳、運転手、修理士など多様な職種に日本人が必要とされました【昭和06-15(20)】。また大津水耕農園では、農薬を扱う化学技術者など専門職につく人もいました。

こうした日本人労務者の労働条件は、特別調達庁が定めた「連合国軍関係使用人管理厚生規程」に定められていました。その主な規約を抜粋すると、以下のようなものがあります。1、16歳未満の若年者は雇用しない、2、現実に労働した時間によって勤務時間を計算する、3、1日8時間、週40時間以上48時間以下の労働時間、4、組合活動の自由、5、健康保険・厚生年金の支給(基本給の他に、勤務地手当・家族手当・有給休暇出勤手当・特殊作業手当・時間外手当の付加など)【昭和06-127】。

日本で労働基準法が施行されたのは、昭和20年のGHQによる民主化指令(労働組合結成の奨励・経済の民主化など)を受けたうえでの昭和22年であり、当時、日本社会全体を通しても労働福祉に対する理解は、まだ充分とはいえませんでした。その中で、進駐軍で働く労務者の労働環境は、県内の他の企業にとっても戦時中と比べて新鮮で、参考にすべきものだったのではないでしょうか。

ところで、日本人労務者にとっての娯楽の一つは、県によって企画された、進駐兵とその家族とともにおこなう行事の数々でした。たとえば、映画鑑賞会や演劇鑑賞会、日帰り旅行などです。日帰り旅行では、102名の対象者からなる2組の班が2日間に分かれて、それぞれ延暦寺から鹿苑寺金閣、苔寺、東大寺などをまわって交流を深めました。このように、進駐をした側とされた側という立場の違いはありましたが、個人レベルでは職場を通しての交流や相互理解もあったようです。

節目の年

今年は、第二次世界大戦終結から70年の節目の年です。滋賀県では、GHQ滋賀軍政部が進駐し、サンフランシスコ平和条約による駐留軍へと変化した後も含め、12年間にわたる進駐がありました。しかしながら現在では、当時のことも風化していき、記憶も次第に薄れつつあります。戦争中も含めこの時代をそれぞれの立場で振り返り、平和の意味を見つめ直してはいかがでしょうか。

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