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【コラム1】「文明国」の象徴から総力戦体制に至る国勢調査

今年は、国勢調査が初めて行われた大正9年(1920年)の第1回目から数えて20回目となる記念すべき年にあたります。この調査が開始されるきっかけとなるのは、明治33年(1900年)に世界人口センサスへの参加勧誘を受けたためです。そして国内でも、欧米列強と対等な「文明国」の証として、また国民を統治する上で経済の分野を含む国内の世情を明らかにするため、国勢調査実施への機運が高まり、同35年「国勢調査ニ関スル法律」が成立・公布されました。しかし、日露戦争や第1次世界大戦が続き、調査開始は大正9年となってしまいます。今回は、第1回開始時から総力戦体制へと向かう時期に、国勢調査がどのように準備・実施されたのか、見ていきたいと思います。

国勢調査の開始

まず初めに、そもそもなぜ大正9年に国勢調査が実施されたのでしょうか。明確な史料は残されていませんが、大正7年当時の首相寺内正毅が軍部出身で、彼が第1次世界大戦での経験から軍事動員上の要求に対処し、また戦後経営の政策を立てる必要性から実施に動いたとされています(佐藤正広『国勢調査 日本社会の百年』岩波書店2015年4月)。また、大正9年は欧米各国でも調査を実施する年にあたり、西暦1920年・「皇紀2580年」・朝鮮総督府始政10年など区切りのよい年でもありました。日本は、日露戦争・第1次世界大戦での戦勝国となったことで、世界の欧米列強の仲間入りを果たし、「文明国」の象徴と位置付けた調査を始めたのです。
現在も継承されていますが、調査日は第1回より10月1日です。これは、調査員が活動しやすい時期にあること、転居・旅行による不在が他の時期と比べ少ないこと、行政の基礎資料として、平均的状況を表す会計年度(4月1日~翌3月31日)の中間日に設定したことが理由にあげられます。以後、各回とも10月1日と定め、過去の統計と比較しやすくしました。

第1回国勢調査

第1回の調査内容は、氏名・世帯における地位・性別など計8項目でした【大さ8(41)】。国民の誰もが記入しやすいよう、申告書の説明文にはふり仮名が付けられ、さらに「国勢調査(このしらべ)は、国民(ひとびと)の生活(くらしかた)、社会(よのなか)の実況(ありさま)をよく知り、・・・」と、意味を理解しやすい言葉で表現されました。
また国民への啓蒙活動も盛んに行われます。集会やポスターによる宣伝の他、懸賞金付きで国勢調査唱歌を募集し、各学校の児童・生徒・幼稚園児に至るまで唱歌を歌うよう周知徹底が図られました【大さ10(13)】。
調査当日、県の臨時国勢調査部職員が八幡町(現近江八幡市)に事務視察を行った際に記録を残しています。この中で、町長と助役の話が採録されており、雨天で順延した相撲の力士約150人が町内で申告書への記入をすることになったものの、出生地など不明確な箇所があり、便覧を用いて徹夜で作成していた様子を知ることができます【大さ9合本2(8-5)】。

昭和5年の大規模調査

昭和5年(1930年)は、2度目の大規模調査にあたる年でした。第1回の調査以降、「欧洲戦乱」、いわゆる第1次世界大戦の影響を受け、日本の社会経済事情の著しい変化により、人口の分布や産業・職業構成が激変した地域も多く生まれました。大戦中は一時、特需景気(大戦景気)に沸いたものの、戦後の大正9年(1920年)3月以降は一転して戦後恐慌に陥り、加えて昭和2年には金融恐慌も発生したのです。このため、政治経済・社会的資料の収集が重視され、調査項目に反映されます。
この時の調査内容は、「従業の場所」が新たに加わり、昼間人口が集計されました。また、失業問題に対処するため「失業」を、居住水準を把握するため「住居の室数」を追加し、国の行政・経済上における要求がより高まった調査となります。調査結果は、第1回が9年後の昭和4年に発表されたのに対し、今回は5年後の昭和10年に公表され、集計速度の進化がうかがえます【昭あ158(22)】。

総力戦体制時における調査

「皇紀2600年」の記念すべき年とされた昭和15年(1940年)の調査は、同12年より始まる日中戦争が激化する時期にあたり、その影響を受けて調査事項は従来にないほど複雑な調査となります。そして産業間で人口移動が激しくなる戦争以前の職業や、「機械技術者」・「看護婦」といった指定技能の申告など、労働の計画的再配置に備え、国は軍事動員の際に必要な情報を集めようとしたのです。県が作成したポスターデザインも、銃身に付けた日の丸が掲げられ、「正シイ申告興亜ノ礎」と戦争の世情が見られます【昭さ42(78)】。

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