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【コラム】明治におけるインフラ整備

明治時代に入り、文明開化や西洋化の風潮はそれまでとは大きく違う生活変化を人々にもたらしました。人々の生活を豊かに変えていくインフラは、次第に県民や地域の間へと浸透していきます。それまでの時代にはなかった上水道や郵便制度、電信、電話、ガスといったものは、近代文明の象徴ともなりました。
今回は、当時、そのほとんどが大津からはじまったインフラ整備の広がりが人々の生活にどのような影響を与えたのか、その軌跡を振り返りたいと思います。

通信事業の整備

江戸時代までの近江国は、東海道や中山道をはじめとする諸街道により畿内と東国を繋ぐ交通の要所でした。そして、その重要性は明治時代を迎え、西洋文明が導入されても変化することはありませんでした。その東海道を利用した通信制度は、ただ手紙を移送するだけだった飛脚制度から郵便制度の移行により、大きく変化します。
明治4(1871)年1月、新政府が東京-大阪間、東海道筋各駅付近五里(約19.6キロメートル)以内の各町村および勢州(伊勢国、三重県)・美濃路に新たに官営郵便を開くとの告示をなします。そしてこの告示に基づき同年3月、大津、草津・石部・水口・土山に、郵便取扱所が設置されました。これらは、近代郵便制度創設に尽力した前島密の建議によるものでした。前島は明治4年8月には駅逓頭に就任し、郵便事業の整備を主導します。郵便取扱所は同6年4月に郵便役所へ、次いで8年1月には郵便局へと改称を重ねます。大津には3ヶ所の郵便箱が置かれ、一日4回の物集配が行われました。そして7月からは手形・小切手などの送金を行う為替業務が、同10年7月からは貯金業務も開始されました。また26年からは、小包の取扱いも開始されるなど、近代的郵便制度は整備されていきます。ちなみに前島は、明治19年に関西鉄道会社の社長に就任し、県内を始めとする畿内鉄道網の整備に尽力するなど、通信・運輸両面で関西の近代殖産興業発展に貢献しました。
次に電信についてですが、明治8年1月、大津の湊町に電信分局が開設されたことがその始まりです。これは県下において、明治5年9月の彦根に次ぐものでした。ついで電気は、琵琶湖疏水の水力発電を利用し大津への送電を計画します。大津営業事務所を上京町に、変電所を神出に設け、明治30年1月1日に営業を開始しました。また電話は、33年に大津郵便局内に電話課が設置されますが、実際に電話が開通するのは、6年後の39年12月でした【明お58合本1(177)】。ただ、当日開通したのは官公庁で22台、商工業者で123台にすぎず、一般の庶民にとっては手の届かない貴重品でした。県内で発刊されていた当時の新聞の一つ『近江新報』(県内の端緒は『琵琶湖新聞』)には、当時の世情を伝えるエピソードとして電話布設に関する記事があり、布設によって祭礼の曳山巡行が妨げられることを危惧する市民の意見が載せられています。

明治後期の供給事業

通信事業の整備から若干遅れ、ガスの供給が明治43年12月に開始されます。県が定めた瓦斯営業取締規則にのっとり、明治31年に市制を施行した大津市内の一部地域で大津瓦斯株式会社が供給を行いました。供給されたガスは、熱源としてよりもむしろ光源として用いられ、ガスの原料は石炭を主としていました【明な272(3)】。市内の676戸で使用されたガス器具のうち、熱用527個、灯火用1959個と、灯火用の総数が3倍もの差をつけていました。その後、第一次世界大戦の影響により、一時供給を停止したこともありましたが、昭和11(1936)年には都市ガスとして市営に移管されます。
一方、上水道も、明治44年3月から給水が実現します。当時、大津市は、京都府の主導で明治18年に開始された琵琶湖湖水工事によって、大津運河(琵琶湖疏水)が掘削されたために井戸水が徐々に枯渇し、その被害は市内西部地域へと広がりを見せていました。そこで被害住民たちは、「飲料水・使用水被害者組合」を結成します。これに応じた大津市は、湖水の恩恵を受ける京都市との粘り強い交渉により、代償として西部地区上水道を京都市がつくり大津市が引き継ぐ、という契約を締結したのです。こうして、大津で最初の近代的上水道が完成しました。

近代的生活の萌芽

こうした通信事業の整備や生活に直結するインフラの整備は、新しく文明開化を迎えた住民に日常生活の近代化と風俗の変化をもたらしました。そしてそれらの変化は、現在まで続く近代的な生活文化の基礎となっていきます。
現在のインフラ整備に比べ不十分な面もありますが、その歴史は、今の私たちが生活する社会に通ずる近代的生活の萌芽でもありました。

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