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【講演会】未来に引き継ぐ公文書―時代を越えた共有資源―

県政史料室では、県が保有する「歴史的文書」(公文書)の保存・活用を促進するため、県民・県職員向けに毎年講演会を開催しています。本年は「未来に引き継ぐ公文書―時代を越えた共有資源―」をテーマに選び、公文書管理の現状と課題について考える機会を設けました。

概要

演題:「未来に引き継ぐ公文書―時代を越えた共有資源―」
日時:平成28年11月16日(水曜日) 13時30分~15時
会場:滋賀県庁新館7階 大会議室
講師:井口和起氏(京都府立総合資料館顧問、福知山公立大学学長)
主催:滋賀県、全史料協近畿部会
参加者数:94人(一般35人、職員59人)

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講演要旨

公文書館から公文書管理法へ

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今回のテーマは公文書ですが、地方自治体にせよ国にせよ、様々な政策を決め、それを実行していきますが、いったいどこで決めて、その中身はどれだけ記録されていて、あとでたどることができるのでしょうか。その全国的な状況については昨年、兵庫県で開かれた全国市民オンブズマンの報告があります。公的機関の決定する場所がきちんと定められて、なにが討議されたかが決まった形式で記録に残されるかたちは、国にあってはようやく、公文書管理法によって決められ、閣議決定などは全て記録され、残されるシステムが今生まれているわけです。こうしたことは、どんな意味を持つのでしょうか。

公文書管理法制定直前に出された公文書管理のあり方に関する有識者会議の報告書(時を貫く記録としての公文書管理のあり方~今、国家事業として取り組む~)では、「民主主義の根幹は国民が正確な情報に自由にアクセスし、それに基づき正確な判断を行い、主権を行使することにある。国の活動や歴史的事実の正確な記録である「公文書」は、この根幹を支える基本的インフラであり、過去・歴史から教訓を学ぶとともに、未来に生きる国民に対する説明責任を果たすために必要不可欠な国民の貴重な共有財産である。」「一方、公文書の管理を適正かつ効率的に行うことは、国が意思決定を適正かつ円滑に行うためにも、また、証拠的記録に基づいた施策(Evidence Based Policy)が強く求められている今日、国の説明責任を適切に果たすためにも必要不可欠であり、公文書を、作成⇒保存⇒移管⇒利用の全段階を通じて統一的に管理していくことが大きな課題となっている」と書かれています。

ところで、日本の歴史の中で国や地方自治体の行政文書がどのようにこれまで扱われてきたのでしょうか。律令制の奈良・平安の時代から、江戸時代、特に吉宗のときには御定書百ヶ条を作ったりしていろいろなことをしてきました。幕府だけでなく藩も文書を作ります。それらは村文書になって沢山残っています。旧臼杵藩のキリシタン弾圧文書はバチカンの図書館に残ったりもしています。明治18年には内閣記録局が設置されて近代的な公文書管理や保存の原型が出来ました。でも、本当にそれが十分であったとは到底言えない状況でした。伊藤博文や山県有朋はいつでも主権者である天皇に説明責任をはたせるように公文書を自分で持っていたのです。戦前のそういう傾向に対し、そういうことは一切やめて、公文書館を作り、公文書館法を作り、公文書管理の法律を作りましょうということであります。

日本における様々な文書資料の保存・公開機関

国立公文書館が1971(昭和46)年、総理府附属機関として開館し、1987年には公文書館法が制定されます。以来、国または地方公共団体が保管する公文書その他の記録は、現用のものを除き、歴史資料としてみなされてきました。そして、国および地方公共団体は歴史資料として重要な公文書等の保存および利用に関して適切な措置を講ずる責務を有するんだということを公文書館法は言っています。そして、保存、閲覧、調査研究を行うことの義務づけと、これら公文書館に関することは地方公共団体の条例で定めなければいけないことになっています。総務省の昨年出した報告書では、全てと言っていいくらい公文書館を都道府県や政令市が作っていることになっていますが、条例設置のところはまだわずかだと言わざるをえず、専門職員もおかれてはいない状況にあります。そんな状況の中で、公文書管理法ができてきますが、有識者会議の理念を受け継いで、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として公文書を位置づけ、国民主権の理念に則って11項目に亘る公文書管理の一般法ができることになります。

振り返りますと、公文書というのはこれまでから様々のところで保存されていますが、2つの大きな流れがあります。一番早いのはおそらく図書館で、1933年に図書館令が改正されたときに図書記録の類を保存することとなり、記録類も保存されていきます。それから、戦後の混乱の中で、空爆などの難をのがれた地域の江戸時代からの文書が散逸するおそれがあることから、特に近世史の研究者を中心とする資料保存運動が強く進められた中で、文部省が資料館を設置します。地域で言えば、郷土資料館とか図書館の郷土資料室、文書館といった所に収集保存されていきます。それが一層加速したのは1960年代で、特に明治百年前後に各地で市町村史や都道府県史の編纂が進み、資料館、歴史館など様々な館でその資料が保存されました。もうひとつの流れは、公文書館法から現在の公文書管理法に至るいわゆる組織アーカイブズの流れです。歴史資料だから大事だということではなく、組織が仕事をしてきた中で、その知恵を集積し、組織を活性化するための材料として重要なものを残し、受け継ぎ、新しい組織づくりに役立てていく。県政でいえばそうした資料が同時に県民に利用され、それに基づいて、県民は県政のあり方を批判したり、説明を受けたりする、そうした組織アーカイブズとして重要な役割があるということです。

今後の県の公文書管理について

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県が策定した「未来に引き継ぐ新たな公文書管理を目指して(方針案)」には、たいへん敬意と期待を抱いています。この方針案には、今回話した要点が全てまとめられていますが、特に、公文書管理に関する新しい条例が目指しているのは現在は認められていない歴史的文書の利用請求権の保障や、現用文書から非現用文書へと継続的に移行できる統一的な規定、いわゆる文書のライフサイクルの確立であり、県政史料室の位置づけも明確となっています。

そして滋賀県は、今後、意思決定過程を示す文書作成義務をはじめ、文書の移管や廃棄スケジュールなどの明確化を、地方機関も含めたうえで、策定しようとされています。中でも、警察や教育委員会の文書が含められていますが、このことは非常に進取的な取組みです。警察で所蔵されている災害と救助に関する文書は、防災を考えるうえで特に大切になってきます。

しかし、一方、地方自治体の持つ文書以外の文書も地域に関わる非常に大切な文書であります。なぜなら、地方自治の根幹は住民による自治であり、住民の活動の記録もまた、地方自治体のアーカイブスと言えるからです。

現在は県民情報室内に設けられている県政史料室は、今までの伝統の上に、県の行政組織としての、そして県のアーカイブズとしての役割を第一義的に果たす、と期待しています。さらに望むべくは住民自治に根差した文書や個人の文書も視野に入れ、史料の所在情報を記録する機関としての中心的役割を果たしていただきたい。

お問い合わせ
総合企画部 県民活動生活課 県民情報室
電話番号:077-528-3126(県政史料室)
FAX番号:077-528-4813
メールアドレス:[email protected]